生産管理システムを複数事業部に導入する際のポイント ― 生産形態の違いへの対応

製造業では、同じ会社の中でも事業部ごとに生産のやり方が大きく異なることがあります。
たとえば「量産型の見込生産」を行う事業部と、「都度設計・都度製作の個別受注生産」を行う事業部が並立しているケースです。
このような場合、生産管理システムを導入しようとすると「どの部門に合わせるべきか?」という壁に直面します。

このページでは「複数事業部への生産管理システム導入」をテーマに、失敗パターンと成功のポイントを解説します。


事業部ごとに異なる生産管理システムを入れると何が起きるか

生産形態が異なる事業部に同じシステムを無理に当てはめると、現場に合わず混乱が生じます。
そこで「事業部ごとに別々の生産管理システムを導入する」という選択をする企業も少なくありません。
これは一見合理的ですが、次のような問題が起きやすくなります。

ケース 問題
同じ得意先に量産品と個別受注品を納品 事業部ごとに別々に請求書を発行
→顧客が混乱し問い合わせが増える
同じ仕入先から部品を購入 事業部ごとにバラバラで集計される
→全体の仕入状況が把握しづらく、支払処理も煩雑
売上や原価の集計 各システムからデータを集めて手作業で合算
→処理が遅れ、ミスも増える

「各事業部の最適」を追求するあまり「全社最適」を見失うのが典型的な失敗パターンです。
事業部ごとの事情に合わせた柔軟さを保ちつつ、会社全体で統一すべき部分を明確にしないと、逆に非効率になります。

解決のカギは「販売・仕入」の共通化

成功のポイントはシンプルで、生産管理システムは事業部ごとに最適なものを導入しつつ、
「販売管理」「仕入管理」だけは全社で共通化することです。

<販売・仕入だけを共通化する理由>
○請求書を一本化できる
 得意先に対して事業部横断でまとめて請求でき、効率と信頼性が高まる
○仕入データを一元化できる
 仕入先への支払いを一本化でき、経理処理がシンプルになる
○月次処理が効率化する
 事業部間のデータ統合・調整が不要になり、締め処理に時間がかからない
○経営情報を見える化できる
 各事業部の損益や原価を一元的に把握でき、意思決定がスムーズになる

上記の図式なら「現場の自由度」と「経営の一元管理」を両立させることができます。
導入後のトラブル回避のため、以下のチェックリストを使って自社の状況を確認しておきましょう。

<導入前に確認したいチェックリスト>
① 請求・仕入はどの範囲を共通化するか?
② 経理システムや販売管理との連携方法は?
③ 各事業部のシステムから共通基盤にデータをどう集約するか?

将来的に生産管理システムを統合する可能性があるか否かも併せて検討しましょう。
各種コードや入力項目のルールを統一しておくと、円滑な統合が可能です。


まとめ:統合と事業部ごとの柔軟性のバランスが重要

複数事業部への生産管理システム導入を成功させるためには、統合と柔軟性のバランスを意識することが欠かせません。
「事業部最適」と「全社最適」をうまく両立させれば、大きな効果を得られます。

1. 事業部ごとに生産形態に合うシステムを導入する
例:量産型には工程管理が強いシステム、個別生産には受注設計に強いシステムを導入

2. 販売・仕入は統一したシステムを利用する
共通のデータ基盤を持つことで、経理や経営の視点を守る

3. データ一元化を前提に標準化を検討する
得意先コード・仕入先コードを統一し、入力項目や品目コードのルールをそろえると、後の統合がスムーズになる

「現場には柔軟さを、経営には統一された数字を」
これが、複数事業部での生産管理システム導入を成功させるカギです。

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