MRP(資材所要量計画)は「いつ」「どれだけ」「何を」手配すべきかを計算する仕組みで、
生産に必要な資材を過不足なく確保するための計画です。
コスト削減に有効な生産管理の手法ですが、個別受注生産においては導入に慎重な判断が必要となります。
このページでは、MRPを採り入れるべきか判断する材料をご紹介します。
・MRPとは?
・個別受注生産の特徴
・MRPと個別受注生産の相性
・よくある誤解と失敗例
・導入判断の簡易チェックリスト
MRPは「必要なモノを」「必要な時に」「必要な量だけ」確実に調達するための仕組みです。
基本的な流れは以下のようになります。
1. 製品BOM(部品構成表)をもとに子部品・孫部品を展開(ツリー構造)
2. 各部品の総所要量を計算
3. 現在の在庫・手配済み数量を差し引いて正味所要量を算出
4. 各部品の製作や購入のリードタイムを加味して、いつ手配すべきかを逆算
5. 発注ロットやまとめ手配などを考慮して最終的な手配計画を作成
このように、あらかじめ未来の需要(=生産計画)を前提とした調達・製造計画を作成するのがMRPです。
項目 | 内容 |
---|---|
製品仕様 | 案件ごとに異なる(都度設計) |
生産計画 | 注文ごと(製番単位)に計画 |
在庫管理 | 基本的に完成品在庫を持たない |
部品手配 | 製番ごとに紐付けて都度手配 |
原価管理 | 製番ごとに原価を集計(個別原価計算) |
個別受注生産はMRPの前提となる需要予測もなく、製品構成も固定ではないことがほとんどです。
MRPの特性を理解すると、個別受注生産には合わない場合が多いとわかります。
ここでは相性が悪いと考えられる原因と、MRPが役に立つ条件を見てみましょう。
• 都度設計=BOMが都度異なるため、MRP展開の意味が薄れる
• 都度手配=製番別に購買・製造を進めるため、まとめて手配する効果が出にくい
• 製品在庫を持たない=需要予測に基づく計画生産を前提とするMRPが機能しない
• 手配時期が毎回異なる=一律のリードタイム前倒しでは不整合が起こる
• 原価も製番別に追いたい=まとめて手配すると原価の振り分けが難しくなる
MRPは受注生産の現場では完全に機能するのが難しいばかりか、逆に混乱を招くケースの発生も考えられます。
条件 | 結果 |
---|---|
一部定番部品・ユニットを在庫運用している | 製番またぎで共通部品があると、まとめ手配が可能 |
各機種の構成が似ている(標準BOMに近い) | 都度部品構成を作らないので、MRPの展開が有効に働く |
見込生産と受注生産の混合(MTS+MTO) | 見込製品だけにMRPを利用する運用が可能 |
購買リードタイムが長く、計画手配が必要 | 必要部品の前倒し補充の判断がMRPでできる |
「受注生産が100%ではない工場」や「共通部品の在庫を合理化したい工場」では、部分的なMRP運用で効果が得られる場合もあります。
※ただし発注点方式での共通部品購買だけで運用するのが好ましいケースもあります。
運用時の誤解と失敗例をあらかじめ知っておけば、貴社にMRPが必要かを適切に判断できます。
ありがちな誤解
① MRPを使えばすべての手配がうまくいく
→個別BOMの都度展開が前提になっていると、マスタ登録が追いつかず破綻する
② ERP(企業資源計画)パッケージにはMRP機能があるから将来安心
→ERPに含まれるMRP機能は「量産」や「見込生産」が前提で機能が合わず、使いものにならない
③ 共通部品があるからとりあえずMRPを入れておこう
→共通部品は適正に手配できるが、それ以外の個別部品は別管理になるため、「二重管理」や「段取りミス」が発生する
実際の失敗例
① MRPの計画に従って部品を大量手配したら、製番別原価が不明確になり、部品在庫を過剰に抱えることになった
② 共通部品をまとめて手配したら、一部の製番で納期遅れが発生した上、過剰在庫になり滞留した
③ MRP展開が複雑なため、手配済みかどうかがシステムと現場で食い違い、納期遅延・部品不足を引き起こした
MRP導入で失敗しないよう、下記のチェックリストをご活用ください。
2つ以上にチェックが入れば、部分的なMRPの導入を検討してもよいでしょう。
■チェックリスト
[ ] 製品在庫を持っている
[ ] 複数案件で共通部品を使っている
[ ] 原価管理は総合原価計算(※)で行っている
[ ] 経営方針として将来的に見込生産化を考えている
※総合原価計算…一定期間における総コストを生産数で割り、1個あたりの製品原価を算出する計算手法
➢ 製品在庫を持っている
製品在庫をもつ工場は基本的には見込生産なのでMRPが必要です。
ただし、製品在庫を持つ機種の比率が低い場合は管理が複雑化する恐れがあります。
➢ 複数案件で共通部品を使っている
共通部品があれば、まとめ手配も可能なのでMRPが有効です。
製品在庫の場合と同様、共通部品を使う案件の比率が重要です。
➢ 原価管理は総合原価計算で行っている
個別原価計算を行っている工場のほとんどはMRPを必要としません。
➢ 経営方針として将来的な見込生産化を考えている
受注生産と見込生産の両方を行っている場合、どちらの割合を増やすかで選ぶシステムは180度変わります。見込生産化するならMRPが役に立ちます。
MRPは非常に強力な手配計画ツールですが、生産体制によっては真価を発揮できないこともあります。
以下のような「部分的な導入」であれば、MRPの利用も可能です。
• 共通部品や定番構成品のみをMRPで管理する
• 見込生産品と受注生産品を切り分け、見込分だけにMRPを適用する
• 今後の見込生産比率の拡大を見据えてMRP導入準備を始める
導入の成否は、システムそのものよりも導入範囲の見極めと業務との適合性にかかっています。
便利なツールでも使える環境がなければ宝の持ち腐れになります。
最も重要なのは「自社に合うシステムを選ぶ」ことです。