「原価差額配賦」と「製造間接費配賦基準」を解説!製造業の原価計算入門

「個別原価計算の数字が会計と合わない」「間接費の配賦方法が正しいのか不安…」
製造業の原価管理を担当していると、こうした悩みによく直面します。
多くの場合は、原価差額配賦や製造間接費の配賦基準を正しく理解していないことが原因です。


このページでは、原価差額配賦の考え方や具体例、製造間接費を配分するための基準の選び方まで、基礎からわかりやすくお伝えします。
日々の原価計算に不安を感じている方や、より正確なコスト管理をめざす企業にとって役立つ内容です。


1. 個別原価計算の基本
個別原価計算とは、製品や工事など案件ごとに発生したコスト(材料・外注・人件費など)を集計して、製番ごとの原価を計算する方法です。
受注生産型の製造業での原価把握に適しています。
個別原価計算では、さまざまな費用を製品との関連によって「直接費」と「間接費」に区分します。
区分 内容 集計報告
直接費 直接製番に紐づく費用(材料費・外注費・直接作業者の人件費など) 製番ごとに直接集計
間接費 製番に直接結びつかない費用(共通作業者の人件費、電気代、減価償却など) 配賦(分配)して製番に割り振り
この「直接費」と「間接費」の区分が、後ほど説明する「原価差額配賦」や「製造間接費」の配賦基準を理解する出発点となります。

2. 原価差額配賦の仕組み
原価計算では、作業者の人件費を「予定賃率 × 作業時間」で計算するのが一般的です。
しかし実際の賃金と予定賃率(アワーレート)は必ずしも一致しません。

<実際の賃金と予定賃率の不一致例>
予定賃率:¥2,000/h × 100h = ¥200,000
実際賃金:¥2,200/h × 100h = ¥220,000
差額(原価差額):¥20,000

原価差額は、そのままでは製番ごとの原価に反映されません。
そのため、後から各製番に配賦する(=割り振る)必要があります。
この処理を 「原価差額配賦」呼びます。
予定と実際の差を正しく調整することで、案件ごとのコスト計算が正確になり、経営判断に役立つデータが得られるのです。

<原価配賦の具体例>
ある月に3つの製番A・B・Cがあり、それぞれの直接労務費を予定賃率で計算した合計は100万円でしたが、実際の賃金は105万円でした。
5万円の原価差額を、たとえば「仕掛原価の比率」に応じて配賦します。

3つの製番の予定計算額:100万円
実際の賃金:105万円
差額: 5万円
製番 予定計算額 実際計算との差額配賦
A 40万円 2万円
B 30万円 1.5万円
C 30万円 1.5万円
上記のように割り振ると、各製番の実際原価に近づけられるため、正確な「個別原価」を把握できます。

3. 製造間接費とは
製造間接費とは、製番に直接ひも付かない費用の総称で、代表的なものに以下があります。 こうした費用は「どの製番で使ったのか」を直接集計できないため、配賦処理が必要です。
製造間接費の配賦を誤ると、案件ごとの原価計算が大きく歪んでしまうため、正しい基準の設定が重要です。

4. 製造間接費の配賦基準と選び方
製造間接費を正しく配分するには、配賦基準を設ける必要があります。
<良い配賦基準の条件>
  • 相関性:費用の発生と比例していること
  • 経済性:データが容易に取得でき、計算コストが大きすぎないこと
  • <主な配賦基準4種類>
    ① 生産量(数量)基準
    製品の数量に応じて配賦します。
    向いているケース:各製品のコスト差が少なく、数量に比例して間接費が発生する場合
    (例)ペットボトル・ネジ・菓子などの量産品

    ② 直接作業時間基準
    直接作業者の作業時間に応じて配賦します。
    向いているケース:間接費が人の動き・作業に連動して増える場合
    (例)航空部品・装置組立など、工程が複雑で人手に依存する製品

    ③ 重量基準
    各製品の重量に応じて配賦します。
    向いているケース:重量が運搬コストや倉庫費、設備負荷などに影響する場合
    (例)鋼材・機械部品・大型設備など重量の大きいもの

    ④ 機械作業時間基準
    製品ごとの機械使用時間に応じて配賦します。
    向いているケース:設備の使用が主な原価要因であり、電気代や機械の減価償却が大きい場合
    (例)NC旋盤・射出成型機・大型加工機を使う工場

    自社の製品特性や工程の実態に合わせて配賦基準を選定することが、正しい原価計算への第一歩となります。

    5. 原価差額配賦と製造間接費配賦の関係
    原価差額配賦と製造間接費配賦基準は、一見すると別々の処理に思えるかもしれません。
    しかし両者は共通して「正確な個別原価を求める」ための手段です。 この2つを組み合わせることで、案件ごとの原価を正確に計算でき、最終的に会計上の「製造原価」とも一致させることができます。
    結果として、利益計算や原価低減の検討がスムーズになり、経営判断の精度が高まります。

    まとめ:原価差額配賦と製造間接費配賦の正しい理解がコスト管理のカギ
    製番別コストの正確な把握は、経営判断に役立ちます。
    自社の配賦方法の見直しによって、会計精度の向上とコスト管理の改善につなげましょう。

    戻る