
生産管理と原価管理は、どちらも製造業の利益を直接左右する管理です。
工程管理によって作業が計画どおりに進んでいても、かかった費用が見積もりを上回っていれば、その案件に利益は残りません。
「現場は忙しく稼働しているのに、なぜか儲からない」という状態は、原価が案件ごとに正しく把握できていないことが原因となっているケースが少なくありません。
特に受注生産・個別生産では、案件ごとに仕様・数量・工数が異なるため、製品単位ではなく「案件(製番)単位」で原価をとらえる必要があります。
本記事では、生産管理における原価管理の考え方を、「何を」「どの単位で」「どうやって」把握するのか、という観点から具体的に整理します。
※本記事は「生産管理の全体像」の一部です。
生産管理全体の考え方を整理したい方は、以下の記事をご覧ください。
生産管理の全体像 ― 受注生産・個別生産の現場で機能する考え方と実践ポイント ―
原価管理とは、製品をつくるためにかかった費用を把握し、適正な利益を確保するための管理です。
製造業の原価は、大きく次の3つの要素で構成されます。
・材料費:製品に使う材料・部品・購入品の費用
・労務費:製造に関わった人の作業時間に応じた人件費
・経費:外注費・電力費・設備の減価償却など、上記以外の費用
生産管理が目指すのはQCD(品質・コスト・納期)の最適化であり、原価管理はこのうち「コスト(C)」を担う管理にあたります。
ここで注意したいのは、工程管理の情報だけでは原価は見えないという点です。
工程表で「作業が予定どおり進んでいる」ことは分かっても、その作業に何時間かかり、いくらの費用が発生したのかは、別途とらえなければ把握できません。
生産管理における原価管理の位置づけは、関連する管理領域とあわせて整理すると理解しやすくなります。
量産(見込み生産)では、同じ製品を繰り返しつくるため、1個あたりの標準原価をあらかじめ決めておく方法が有効です。
一方、受注生産・個別生産では、案件ごとに仕様・数量・工数が異なるため、製品単位の標準原価では実態をとらえられません。
そこで用いるのが、案件(製番)ごとに実際の費用を集計する「個別原価計算」という考え方です。
たとえば、同じ「減速機」を2台受注しても、一方が標準仕様、もう一方が特注仕様で加工工数が1.5倍かかれば、2台の原価はまったく異なります。
製品名だけで原価をまとめてしまうと、どちらの案件が利益を生み、どちらが赤字だったのかが分からなくなります。
製番単位で原価を管理すると、次のことが把握できます。
・案件ごとに、いくらで受注し、いくらの費用がかかったか
・どの案件・どの得意先が利益を生んでいるか
・赤字案件があった場合、その原因は材料費・労務費・外注費のどれか
このためには、発生した材料費・労務費・外注費を、すべて該当する製番に紐づけて集計する仕組みが必要になります。
逆に言えば、製番への紐づけができていないと、いくら数字を集めても「案件ごとの利益」は見えてきません。
なお個別原価計算には、現場向けにリアルタイムで把握する速報値(管理会計)と、決算向けに正確に締める確定値(経理)の2つの考え方があり、両者をどう両立させるかが運用のポイントになります。
詳しくは以下の記事で解説しています。
見積もり時の原価と、実際にかかった原価がずれる主な原因には、次のようなものがあります。
・作業実績が正確に取れていない:誰が・どの製番に・何時間かかったかが曖昧だと、労務費を正しく原価に反映できません。
・不良や手直しの工数が原価に含まれていない:つくり直しにかかった材料費・労務費が記録されないと、原価が実態より小さく見えてしまいます。
・仕様変更や追加工程が反映されていない:受注後の変更が原価に乗らないと、見積もりとの差がそのまま広がります。
これらに対して、生産管理では次のように対処します。
・作業実績を製番に紐づけて収集する:現場での作業の開始・終了を記録し、労務費を製番ごとに積み上げます。
・不良・手直しの実績も記録する:良品分だけでなく、不良対応にかかった工数・材料も原価としてとらえます。
・材料・外注の発生をその都度製番に登録する:後追いの集計ではなく、発生した時点で紐づけます。
なかでも作業実績の正確な収集は、原価管理の精度を最も大きく左右します。
現場の作業時間が見えなければ、製造原価の半分近くを占めることもある労務費が推測値のままになり、原価そのものの信頼性が下がってしまうためです。
労務費は「予定賃率(アワーレート)×作業時間」で算出するのが基本で、賃率を個別・職種別・総平均のどれで設定するか、間接労務費まで含めるかによって原価の精度が変わります。
具体的な計算方法は以下の記事で解説しています。
原価管理で重要なのは、原価を「集計して終わり」にしないことです。
案件ごとに見積原価(実行予算)と実際原価を並べて比較し、差が出たらその原因を分解することで、次の見積もり精度や現場改善につなげられます。
たとえば、ある案件で実際原価が見積もりを上回った場合、以下のように切り分けます。
・材料費が増えたのか(歩留まり・端材・材料の値上がり)
・労務費が増えたのか(段取り・手直し・想定外の工数)
・外注費が増えたのか
これによって「次は段取り時間を見積もりに織り込む」「この加工は内製より外注のほうが安い」といった、具体的な改善判断ができるようになります。
なお実行予算は、受注金額の一定割合(たとえば15%オフ)を目安に立て、発注前に金額をチェックする運用が現実的です。
実行予算の立て方の具体例は、以下の記事で解説しています。
こうした見積原価と実際原価の比較や、製番単位での原価集計は、工程・材料・外注・受注の情報が一元化されてはじめて成り立ちます。
情報が部署ごとにばらばらに管理されていると、原価をまとめるだけで大きな手間がかかり、判断が後手に回ってしまいます。
原価をどう集計し、総原価と個別原価をどう読み分けるのかは、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
原価管理を含めた生産管理全体の考え方については、以下の記事で整理しています。
売上原価や採算の考え方については、以下の記事が役に立ちます。
生産管理における原価管理は、「工程が計画どおり進んでいるか」だけでなく、「その仕事で利益が残るか」を判断するための管理です。
受注生産・個別生産では、製品単位ではなく案件(製番)単位で材料費・労務費・外注費を集計し、見積原価と実際原価を比較することが基本になります。
原価が合わない原因の多くは、作業実績の取り方や、不良・仕様変更の反映漏れにあります。
これらを生産管理の仕組みのなかで製番に紐づけて把握することで、どの案件が利益を生んでいるかが見え、見積もり精度の向上と現場改善につながります。